私には自己がなかった。
だって、自分の意思が持てないのだから。
持つ必要がないので持とうともしなかった。
仮に意思を持ち表現しようとしたら、それは即座に切り落とされる。
母が必要とするのと同等の意見であっても、それはだめ。私が自己主張することは許されない、ありえない。
私は、ただのパーツ。
母自身の手や足、体の一部であるパーツと同じ。
母のパーツは母の意思で動く。
だから私も母の意思で動かされていた。
母にとっても私にとっても、それは当たり前の事すぎて疑問にすら思わないこと。
母が他界してからは私を指示してくれるものはない。
母と一緒に私も死んだのも同然。
もう死別して40年近くたつのに、まだ母の呪縛は取れない。
呪縛にとらわれている自分に気付いていない過去の方が、ある意味楽な生き方でもあった。