キッチンを汚すことへの嫌悪感は、伯母の家で山のような洗い物をしてきたからじゃなかった
もっと昔
母親がきれいにしていたキッチンを私は覚えていた
だから母親が死んでからもきれいにし続けていた
母親を偶像化し、淡い思い出を大切にして何十年も守り続けてきた
シンクの前に立つと窓から光が差し込んで、ステンレスの調理台や水栓がキラキラ光っていた
窓から入るオレンジ色の西日
カタガラスを通してやわらかい光になっていた
父親と半年間だけ住んだ家のキッチン窓も同じだった
私はきれい好きだったんじゃない
キッチンもステンレスも光にも、こだわっていただけで「好き」とは違う
そこに執着してるから、伯母の家の汚いキッチンが苦痛だったんだ
包丁を研ぎながら、これらのことを考えていた